恒大危機の原因とその影響
財務危機が伝えられている恒大(ハンダー)グループの代表の许家印(シュー ジアーイン)が、違法行為の嫌疑をかけられて捜査されています。不動産事業で巨額の財を成し、2017年には中国一の富豪と言われた彼ですが、資金繰りに行き詰まり、中国全土で未完成の不動産物件が162万件あり、600万人の市民に影響を及ぼしていると言われます。烂尾楼(ランウェイロウ)という中国語の言葉がありますが、烂尾(ランウェイ)は中途半端な、という意味で、楼(ロウ)は建物ですので、未完成な建物という意味です。中国ではしばらく烂尾楼(ランウェイロウ)という言葉がよく聞かれることになりそうです。
恒大(ハンダー)グループが破綻した場合、その影響は不動産市場だけにとどまりません。EVやミネラルウォーターなど幅広い事業を手掛けている恒大グループですが、2015年に恒大金服(ハンダー ジンフー)という会社を設立してP to P金融事業に進出しています。P to P金融は日本では聞きなれない言葉ですが、銀行を通さないで個人、企業間でお金の貸し借りをする事業のことです。日本では銀行法や出資法などで融資事業は規制されていますが、当時の中国は規制が少なく、2010年代に多くの企業がP to P金融事業に進出しました。しかし詐欺まがいの業者も多く、多くの事業者が倒産し、出資した資金が返ってこないトラブルが多発しました。恒大金服は現在は恒大财富と名前を変えていますが、金融商品を販売して集めた資金は400億元(約8000億円)に上り、それが恒大グループの資金繰りに使われて、不良債権化していると思われます。
中国の不動産バブルが発生した背景には、政府の政策の影響があります。恒大が創業したのは1996年ですが、まもなくアジア金融危機が発生し、中国経済も減退しました。当時の朱镕基(ジューロンジー)政権は中国経済を発展支えるために様々な大胆な政策を行いましたが、これまで政府が配給するものだった住宅を市場経済化し、個人がマイホームを購入する制度を確立しました。その結果、中国経済は我々が知る通り日本経済を凌駕するまでに成長しましたが、地方政府が不動産デベロッパーに土地を払下げすることが相次ぎ、その過程で汚職や癒着が横行する原因にもなりました。
また、中国の不動産販売は、まだ建物が出来ていないときから分譲を始めるケースが多く、不動産デベロッパーは建物を建てずして資金回収できる仕組みになっています。そのため回収した資金を新たな投資に回すことで、事業を急拡大する一方で、事業者の債務も膨大になっていきました。中国政府もその状況を危険視し、投資用にマンションを買う動きを抑制する政策を始めますが、すでに時は遅く、2023年上半期の時点で、恒大の欠損金は6442億元(約1兆3000億円)に達すると言われています。烂尾楼(ランウェイロウ)の処理と、お金を払ったのに住宅を手に入れられない家主たちの救済はどうなるのか、これからも注目したいところです。