中国宅配戦国時代

中国の宅配業界を騒がせている、极兔快递(ジートゥー クァイディー 英語名:J&T Express)という企業があります。

2015年にインドネシアで創業されていますが、創業したのはRobin Loというインドネシア華人3世の実業家です。もともとインドネシアで中国の携帯電話大手のOPPOのインドネシアゼネラルマネージャーを務めていましたが、移り変わりが早い携帯電話よりも、より永続的にできる事業を始めたいと、OPPOのインドネシアCEOの李杰,OPPOの創業者の一人の陈明永と組んで、极兔快递を創業しました。インドネシアはもともと中華系の人たちがビジネスで強い影響力を持っている国です。OPPOは日本では知名度は高くありませんが、中国ではトップクラスの携帯会社です。

极兔快递は2019年にはインドネシア最大手の物流会社にのし上がりました。携帯会社のOPPOと組んでいたことと、インターネット宅配の成長に助けられた形ですが、創業からわずか4年でトップになるというスピード感には驚かされます。极兔快递はベトナムやフィリピンなどにも事業範囲を拡大し、2020年にはいよいよ中国に進出しました。2021年には中国で2位のシェアを持っていた百世集团を1300億円で買収し、中国でも配送会社のトップ企業の仲間入りを果たしました。

极兔快递が快進撃を遂げた理由は、その価格破壊力です。給料や飲食店の価格などは、もう日本を追い越しつつある中国ですが、宅配便の価格はまだ非常に安いです。极兔快递はEC業者の多い浙江省の义乌(イーウー)で、競合他社が1件1.2~1.3元(約25円)のところを1件1元以下(約20円以下)と、競争相手の価格の下をくぐる戦略を取り、シェアを拡大しました。見かねた浙江省政府が2021年4月に条例を出し、コストを下回る価格でのサービス提供を規制したので、この価格戦争はいったんは終結しましたが、価格競争で疲弊した百世は、极兔に身売りすることになったのです。

この低価格のツケは末端の加盟店にのしかかります。もともと百世集团の加盟店だった運送業者は、极兔快递が百世集团を買収してから利益がまったく出なくなり、配送員への給与も滞りました。給与がもらえなくなった配送員は辞めて故郷に帰ってしまい、その結果、荷物が運びきれずに、生鮮食品は腐ってしまうという事態になっています。買収された百世の加盟店に、より単価の低い仕事が割り当てられ、割を食っている構造が見て取れます。

顧客サービスの面でも、学生証や卒業証書という、人の人生を左右しかねない大事な荷物を紛失してしまって、運賃の10倍の1760元(約3万5000円)しか賠償しなかった、というケースもあります。ネット上の消費者の評価を見ても极兔は他の配送業者に比べて低く、消費者の信頼を回復してサービスレベルを改善しなければ、极兔の快進撃もストップすることになりかねないと思います。