中国ネット証券の闇

中国で急成長しているネット証券会社に、富途控股(フートゥー コングー)と老虎证券(ラオフー ジェンチュェン)という2つの会社があります。どちらも中国本土の人向けに、香港株や米国株を販売することを事業の中心としています。この2社を合わせて500万人以上の顧客があり、そのうち200万人以上が実際に資金を運用していて、その運用金額は600億ドルを超えると言われています。それぞれ「富途(フートゥー)」はお金持ちへの道、「老虎(ラオフー)」はトラという意味になります。中国語の「老(ラオ)」には年を取っているという意味の他に、愛称のように使われることもあります。そのため「老虎」という単語は日本語のトラという意味でっ使われています。それぞれ富途にはテンセント、老虎にはシャオミーと、大企業が出資しています。

しかし、そもそも中国では外国株を自由に取引するのには規制があり、この2社のやっている事業はかなりグレー、というかかなり違法に近い行為です。これまでは事業規模が小さかったので当局も黙認していましたが、多くの中国企業がアメリカ市場に上場するようになると、中国本土の人がこの2社を使ってアメリカ市場の中国企業の株に投資するということが増えてきました。ある老虎证券の顧客は2020年に電気自動車の蔚来(ウェイライ)の株に投資して、テスラ1台分(安くても500万円以上)設けた、という話もあります。こうなってくると当局も無視できなくなってきて、2021年には人民日報がこの2社を名指しで批判することがあり、ナスダックでの2社の株価が急落することがありました。しかしその後も2社は事業を続け、顧客数を増やし続けていました。ゼロコロナ政策で中国経済は大打撃を受けましたが、中国の株式市場が低迷したためにむしろ米国株や香港株は中国の投資家の人気を集め、この2社には追い風になったようです。

2022年の最後の営業日、証券監督管理委員会は富途と老虎の2社が、規則を守らずに中国国内の顧客に海外の証券を販売していると指摘し、改善するよう要求しました。2社の株価はその日のうちにそれぞれ31%、28.5%と下落しました。中国はゼロコロナ政策が解除され、これから経済が上向きになると期待されている矢先の出来事で、関係者も前触れもなくこのような指摘をされて、困惑していると語っています。とは言え中国国民が外国株を取引するのはそもそも違法で、富途と老虎の2社は、旅行や留学用の名目で外貨に交換させるなど、「違法ギリギリ」の方法で取引を行っていましたので、規制されるのも無理はありません。富途と老虎は、事業の主たる対象を、中国国内から、香港やシンガポールへとシフトすることを余儀なくされるのではないかと思われます。