蔚来の事故とテスラの事故

中国のEVメーカー大手の蔚来(ウェイライ)が炎上しています。中国のEV業界は俗に「蔚小理」と言われ、蔚来と小鹏(シャオポン)、理想(リーシャン)の3社がトップを占めています。その中でも蔚来はEV生産台数の首位を占めていました。蔚来は未来(ウェイライ)と発音が同じで、EV企業にふさわしい、いい名前を付けたものだと思います。

その蔚来のEVが6月22日に死亡事故を起こしました。上海の创新港にある立体駐車場の3階から蔚来の試験車が落下し、二人の試験員が亡くなりました。その時に蔚来のオフィシャルアカウントが発したツイートがあまりにそっけないと、炎上騒ぎになりました。問題のツイートですが、

根据对现场情况的分析可以初步确认,这是一起(非车辆原因导致的)意外事故。

訳:現場の状況からまず確認できるのは、これは(車両の原因によるものではない)予想外の事故であるということです。

わざわざかっこ書きで「車両の原因によるものではない」と書いているところが、問題にしっかりと向き合っていない、冷たい印象を人々に与えてしまいました。蔚来のユーザーもこの対応に失望しています。あるユーザーは、2019年に彼が病気で入院した時、蔚来の社員がそれを聞きつけて、生花と果物を贈ってくれたと話しています。特に彼の印象に残っているのが、蔚来の創業者の李斌(リービン)が、バックパック一つでユーザーたちとの面談に自ら参加したことだったそうです。李斌はたった一回あっただけでもユーザーの名前を憶えていて、何か問題があっても、李斌の名前を微信(中国版のLINE)ですぐに見つけることができたので、とてもサービスがすばらしかったと言っています。わざわざお見舞いまで送るとは度が過ぎているように思いますが、そうしたところが、プライドの高い中国人の心をつかんだのでしょう。蔚来はいつのまにか、ユーザー第一の体質を忘れてしまったのかも知れません。

蔚来は昨年の8月から首位の座を陥落した後毎月生産量を落とし続け、12月には回復したものの、小鹏や理想が昨対を超えているのに対し、昨対3.6%減にとどまっています。蔚来の平均的なEVの価格が43万元以上と、比較的高価なことが顧客離れの原因かも知れません。これを補うために蔚来はBaaS (Battery as a service)として、燃料電池のサブスクという斬新なサービスを提供しています。燃料電池をサブスクにする分、初期コストが7万元分くらい低く抑えられて、定額を支払えば電池が消耗しても新品と交換できるサービスです。蔚来のユーザーの18%がこのサービスを利用していると言います。

EVに関連して、台湾の有名な俳優の林志颖(リンジーイン)の乗ったテスラが車道の分離帯に激突し、彼と息子は救出されたものの、車体は炎上する事故がありました。林志颖の痛ましい姿と、テスラが炎上して丸焼けになる様子がネットに流れています。EVですからガソリンを積んでいるわけではありませんが、真っ赤な炎を上げて車体が燃える様子が映っています。テスラの事故の原因はまだはっきりしておらず、車両が原因かどうかわかりませんが、EVに関する事故が続けざまに中国語のネットを騒がせています。EVの安全性に疑問符を投げかける事件ではありますが、中国社会にEVがすでに浸透している表れでもあります。