アカデミー賞と三字経

2021年のアカデミー監督賞を「ノマドランド」が受賞し、監督のクロエ・ジャオさんが非白人の女性で初めて監督賞を受賞したことが、日本でも大きくニュースに取り上げられています。これまでアメリカで活躍しているアジア系の監督は、アメリカの中のアジア人のコミュニティを舞台にした作品を発表することが多い印象がありましたが、「ノマドランド」に出演する俳優は主演のフランシス・マクドーマンをはじめ白人ばかりで、ストーリーも、高齢の白人女性がリーマンショックの影響で家を失い、射場生活をする話です。「ノマドランド」の受賞は、アジア系の人が自分のバックグランドを武器にしなくてもアメリカで活躍できるようになったひとつの証と感じました。
一方、クロエ・ジャオさんの授賞式でのスピーチは、彼女の中国系のバックグランドを色濃く反映するものでした。英語でThree Letters Classicsと言っていますが、これは「三字経」という古典で、中華圏で幼い子に中国語を教えるときによく使われる教材です。三文字ごとの詩のような構成で、その最初のフレーズは「人之初 性本善」ですが、彼女はスピーチの中で中国語で紹介しています。英語では”People at birth are inherently good” 日本語なら「人は生まれたとき、その本性は善である」となりますが、「ノマドランド」のストーリーには、人の本性は善であるという思想が流れています。アカデミー賞を受賞した映画に、東洋思想の影響があることに、興味深く感じます。
三字経は南宋、つまり日本で言えば鎌倉時代に作られたといわれています。鎌倉時代に作られた小学生向けの教科書を、今でも使っているような感覚です。文化大革命で伝統的な文化を一度全否定した中国ですが、最近では論語や三字経などの伝統文化が見直される傾向があります。