「小作文」事件
いま、中国のネットを騒がせているのが「小作文」事件です。平たく言えば、东方甄选(ドンファン ジェンシュエン)という通販会社と、董宇辉(ドン ユィホェ)という、そこに所属するインフルエンサーとの間のトラブルです。
もともとは东方甄选のスタッフが、「董宇辉が話す内容は、実はスタッフが原稿(中国語で「小作文」)を書いている」、と暴露したのが発端です。董宇辉はこれを否定しましたが、会社側との話はこじれ、董宇辉が番組に出なくなる事態となりました。董宇辉のファンは、董宇辉が会社にいじめられていると受け止め、フォロワーが急減、株価も7.13%下落しました。事態を重く見た东方甄选のCEOが介入してきたのですが、「董宇辉には十分な年棒を払っているのだから、ファンの行動を抑えるだろう」と発言して、かえって董宇辉のファンを怒らせてしまいました。その結果、东方甄选のTikTokのフォロワーは騒動前の3100万人から2115万人までに減少し、东方甄选の株価もさらに13%値下がりしました。
最終的に东方甄选のオーナーの俞敏洪がCEOを解任し、董宇辉と一緒にTikTokに登場し、和解を演出したことで、フォロワーも3000万人に回復し、株価も以前の水準に戻りました。
东方甄选は通販事業としては新興で、董宇辉の人気に頼って売り上げを作ってきたところがあります。そこそこの規模の企業が、たった一人のインフルエンサーに依存しているというところが、そもそもの問題点だったわけですが、中国のネットビジネスにおけるインフルエンサーの影響力はすさまじく、1分で1億円売り上げるという話しもめずらしくはありません。东方甄选はもともと中国の学習塾最大手だったのですが、中国政府が学習塾産業を締め付けたために経営が厳しくなり、その打開策として通販事業に事業の主軸を移した企業です。董宇辉も、もともと学習塾の講師だったのですが、知識が豊富で説明もうまかったために、通販のインフルエンサーとして爆発的な人気を集めました。
事態は解決したように見せていますが、东方甄选と董宇辉が本当に和解したいとは思えません。日本だと会社の力が強いと、仮に優秀な社員であっても独立しないで会社に残ることが多いですが、能力のある人はすぐに独立してしまうのが中国のビジネス業界です。董宇辉もこの騒動をきっかけに自分の会社を立ち上げています。これからの両者の動向が気になるところです。