目立たずに1兆2000億円

あまり知られていないスマホメーカーが、昨年2023年に1兆2000億円の売り上げをあげているという現象が起きています。TECNOやitelというブランドを展開している、传音(伝音 チュアンイン)という中国のメーカーです。日本での知名度は低いですが、実は中国でもあまり知られていません。なぜならこれらのスマホは中国よりも、アフリカで主に販売されているからです。

传音の2023年の売上は623.92億元(約1兆2478億円)で昨年比33.9%増、営業利益は67.48億元(昨年対比122.55%増)、税引前当期純利益は50.68億元(昨年対比129.36%増)と絶好調な業績です。創業者の竺兆江(チュー チャオジァン)はもともと波导(ボーダオ)という中国のスマホメーカーで営業マネージャーをしていましたが、海外販売部門を担当した時にその可能性に気づき、2006年に会社を辞めて传音を創業しました。

传音の強さは、コスパと現地化(ローカライゼーション)にあります。特にアフリカ市場で優位に立つため、肌の色の濃い人の写真がきれいにうつるアルゴリズムを開発したり、SIMカードが4枚入る携帯を開発したりしています。日本で販売されている携帯はSIMカードのスロットが1つのものが多いので、海外でSIMカードを使用するときに不便を感じます。アフリカはキャリアが多く、より通話料が安いところを使い分ける習慣があるので、複数のSIMカードを使える機種が人気があるそうです。アフリカにも小米やOPPOなど中国メーカーが進出して、一時期传音の成長に陰りが見えましたが、コスパと現地化の徹底によって、競争に打ち勝ち、アフリカ市場でのシェア40%超を確保しています。

传音や希音(SHEIN シーイン)に共通するのは、中国企業でありながら、中国市場では勝負していないところです。传音はアフリカ、希音はアメリカと、戦略は違いますが、過当競争で卷(チュアン 最近よく使われる、競争が激しい様子を表す中国語)になった中国市場を避けて、成長できる市場に全振りで投資をして、どちらも成功しています。不動産市場の低調を理由に、中国経済についてマイナスな意見が多く見られますが、传音のようなマーケティング戦略をしっかり立てて、世界で勝負している中国企業を見ると、やはり脅威だと思います。