中国スーパー業界の覇者の落日

中国の国内企業スーパーの雄と言われた永辉超市(ヨンホェ チャオシー)が、苦境に立たされています。永辉超市は2001年の創業以来、中国の流通業界のトップを走ってきました。中国に行くといたるところに丸に「YH」と書かれた看板を見かけます。しかし2018年ごろから失速を続け、ピーク時には1064億元あった時価総額も、今年の8月には754億元にまで低下しました。店舗数も2019年の1440店舗をピークとして、2020年、2021年の2年間で350店舗を閉店しています。コロナの影響ももちろんありますが、原因はそれだけではないようです。

原因のひとつは、サムズクラブ(中国語では山姆 シャンムー)との競合です。サムズクラブはコストコ(好市多 ハオシードゥオ あまり発音が似てないですが縁起がよい字です)によく似た会員制のスーパーで、ウォルマート(沃尔玛 ウォーァルマー)が運営しています。日本には進出していないのでなじみはないですが、北米ではコストコの強力なライバルになっています。中国にもコストコは進出していますが、サムズクラブの方が店舗数も多く、新中産階級と言われる若者に人気があります。広東省や江蘇省など沿海部を中心に30店舗ほど展開しています。

永辉超市はサムズクラブに対抗するため、昨年5月に河北省の石家庄にサムズクラブやコストコと同じ業態の会員制スーパーをオープンさせましたが、今年の8月8日に閉店を発表しました。普通の食品スーパーと会員制スーパーとでは、同じ食料品を扱っているとは言っても考え方や戦略が大きく異なります。永辉超市の中に、会員制スーパーを運営する遺伝子がなかった、と指摘する人もいます。

それ以外にも、2018年には永辉mini店という小型の店舗業態を開発し、当初は1000店舗を目標としていましたが、昨年末現在で33店舗しかありません。このように、新しい業態にチャレンジして、失敗を重ねているのが不振の原因のようです。

背景にはECの急速な浸透があります。中国ではECが日本以上に発展していて、実店舗の需要が奪われています。永辉超市はそこに危機感を感じつつも、新しい業態を作り出すことができずにいるようです。往年のダイエーを思い出させますが、そこにさらにECが追い打ちをかけているような状況でしょうか。中国社会の急速な変化に、大企業といえども翻弄されているようです。